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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14135号 判決 1990年8月23日

主文

一  被告らは、連帯して原告に対して、金一九二〇万〇七〇二円及び内金一九〇〇万円に対する昭和五九年八月八日から完済まで年一四%の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告の請求

原告の請求は、被告渡部好男に対しては貸金として、被告庄子宏に対してはその連帯保証債務の履行として、元金一九〇〇万円、利息二〇万〇七〇二円及び右元金に対する昭和五九年八月八日から完済まで年一四%の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

二  事案の概要

1  争いのない事実等

(一)  昭和五九年六月二六日次の金銭消費貸借契約及び連帯保証契約が締結され、その貸金は、昭和五九年六月二七日被告渡部好男が指定した第一勧業信用金庫目白支店の同被告名義の普通預金口座に振り込まれた。(甲一~七、伊藤九州男(一回25~26項)により認める。)

貸し主 原告

借り主 被告渡部好男

連帯保証人 被告庄子宏

元金 一九〇〇万円

利息 月利〇・七六五%

遅延損害金 年一四%

(二)  原告の担当者である伊藤九州男は、被告渡部好男から、同人が都市開発株式会社から買い受けた不動産の売買代金として支払うように依頼を受けて、右の預金の払い戻し請求書の交付を受けていた。そして、伊藤九州男は、右の払い戻し請求書を都市開発株式会社に交付した。(争いがない。)

(三)  本件貸金には、都市開発株式会社の連帯保証が付いており、原告は、その連帯保証債務について付けられている抵当権について、昭和五九年一〇月二六日東京地裁及び千葉地裁佐倉支部に担保権の実行としての競売の申し立てをし、その不動産競売の開始決定は、昭和五九年一一月四日及び昭和五九年一二月二八日に抵当債務者である都市開発に送達された(民事執行法四五条二項)。また原告は、千葉地裁佐倉支部に債権計算書を提出し(民事執行規則六〇条)、その内容に基づいて作成された配当表を添えて、昭和六三年五月一六日の配当期日の呼出状(民事執行法八五条二項)が、都市開発に対して送達された。右の担保権実行としての競売手続は、今なお裁判所に係属している。(争いがない。)

(四)  被告らは、本件貸金は、昭和五九年八月七日弁済期が来たが、時効期間は、商事債務であるために五年であるから、すでに本訴の提起時(平成元年一〇月二五日)には時効が完成しているとして、時効を援用する意思表示をした。(争いがない。)

2  争点

(一)  原告の担当者である伊藤九州男が被告渡部好男から右の預金の払い戻し請求書の交付を受けていたことから、貸金は交付されていないこととなるか。

(二)  伊藤九州男は、右の預金を被告渡部好男の買い受けた不動産の売買代金として都市開発に支払わず、他の物件の売買代金として支払ったか。

(三)  被告渡部好男は、伊藤九州男に、買い受け不動産の登記書類を確認して支払うよう依頼したか。

(四)  原告の抵当権の実行としての競売の申し立ては、裁判所の競売手続を通した、原告の都市開発に対する連帯保証債務の履行の催告に当たり、右の手続が係属している限り、履行の催告も継続しているものと見るべきであるか。

(これが肯定されると、民法一五三、一四七、四五八及び四三四条により、主債務者及び連帯保証人である被告らに対する時効は、中断していることとなる。)

(右のほかに、(二)の債務不履行または(三)の依頼に反した行動による損害の額などの争点がある。)

三  争点についての判断

1  争点(一)(貸金の交付)について

被告らは、原告の伊藤九州男が被告渡部好男から預金の払い戻し請求書の交付を受けていたから、貸金は交付されていないという。

しかし、被告渡部が預金の払い戻し請求書を伊藤九州男に交付しても、被告渡部は、預金の払い戻しを受ける権利を失うわけではなく、同人の預金に対する支配は失われないから、貸金が被告渡部の支配する預金口座に振り込まれた時点において、貸金の交付があったものと認めざるを得ないのであって、被告らの主張は、採用することができない。

2  争点(二)(買い受け不動産以外の物件の売買代金として支払われた事実の有無)について

伊藤九州男を尋問しても、買い受け不動産以外の物件の売買代金として支払った事実を認めることができず、そのほかにそのような事実を認めるべき証拠もない。

3  争点(三) (登記書類を確かめた後支払うようにという依頼の有無)について

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  売り主である都市開発は、原告と被告渡部との消費貸借契約の際(昭和五九年六月二六日)、原告及び被告渡部に対して、都市開発から被告渡部への所有権移転登記は、売買物件の補修修理とか抵当権等の付着の権利を抹消するために、右の消費貸借契約の後二~三週間かかるといっていた。

証拠

伊藤(一回49項、二回192項)

(二)  伊藤九州男は、右の貸付の際(五九年六月二六日)被告渡部に、貸付金は、貸付実行日である翌二七日に被告渡部の預金に振り込んだ後、その日のうちに、都市開発に支払うことにするがそれでよいかと話し、被告渡部の了解をとった。

証拠

伊藤(一回44、116項)

(三)  そして、原告は、被告渡部の抵当権の設定前に貸付を実行することになることから、被告渡部から必ず抵当権設定登記をする旨の念書を徴収した。

証拠

甲一〇

(四)  伊藤九州男は、本件の貸付金を含めて都市開発から買い受ける買い主に対する貸付金については、包括的に都市開発から連帯保証をとっており、それには補助参加人小郷建設株式会社の根抵当権も設定されているので、都市開発から買い主への所有権移転登記及び買い主の原告に対する抵当権設定登記の登記書類が完備しないうちに、貸付を実行し、その融資金を買い主から都市開発への売買代金として交付しても、不安はないものと考えていた。

証拠

伊藤(二回135項)

右に認定したところによれば、被告渡部から原告に対して、都市開発から被告渡部への所有権移転登記書類を確認した後に、都市開発に売買代金を交付してほしいという依頼はなく、被告渡部は、都市開発からの移転登記が遅れることを承知しながら、都市開発への売買代金の支払を容認していたという伊藤九州男の証言(一回67~76項)は信用できる。

4  争点(四)(時効中断事由としての催告の有無)について

担保権の実行は、被担保債権の満足を求めてするのであるから、その申し立てには、抵当権者の抵当債務者に対する履行の請求が含まれていることは明らかである。そして、担保権の実行としての競売の申し立ては、裁判所に対して担保権及びその被担保債権が存在している旨主張してする権利主張の性質を有するが、その権利主張は、単に裁判所に向けられるばかりでなく、相手方である抵当債務者にも向けられている。これらのことを考慮すると、担保権実行の競売の申し立てに基づき手続が開始され、抵当債務者に対して開始決定が送達されたときは、被担保債権の履行を求める抵当権者の意思が裁判所の手で抵当債務者に伝達されたものと見るべきであり、したがって、競売の申し立ては抵当債務者に対する催告としての効力を有するものと解するのが相当である。

そして、競売の手続が係属している間は、抵当債務者に対する催告も継続しているものとみるべきものであるから、抵当権者は、競売手続が取り消されることにより、担保権実行のための差押えに時効中断の効力が生じないときでも、競売手続が取り消されたときから六ヶ月以内に抵当債務者に対して裁判上の請求をすることにより、被担保債権について時効を中断することができるものと解するのが相当である。

被告らは、差押えそれ自体は履行の催告ではないし、連帯保証人に対する差押えには主債務者に対する時効中断等の効力は認められておらないことからみても、原告の競売の申し立てに催告の効力は認めるべきでないと主張する。しかし、抵当権者の競売の申し立てに基づき、差押え(競売開始決定)によって開始される競売の手続は、抵当権者の権利主張をもとに裁判所によってされる手続であるが、その手続においては、競売開始決定の送達など、権利主張の相手方に対する通知の手続が用意され、その権利主張の当否については、相手方もその手続内で争うことができる。そして、被担保債権の履行を求める債権者の意思は、裁判所の手で抵当債務者に伝達されるのであるが、それは、債権者の意思によって開始される手続の一環としてされるのであるから、債権者自身の手でされたものと同視して妨げない。このように、抵当権者の競売の申し立てとその後の競売手続は、相手方である抵当債務者に対する関係での裁判上の催告としての要素を充足しているのであって、このことは、裁判上の請求の一つである訴えとその手続を通しての裁判上の催告との関係と変わりはない。そして、時効中断事由である差押えが存在するからといって、それと重複して存在する催告の効力を否定する理由とはならないから、連帯保証人に対する差押えに主債務者や他の連帯保証人に対する時効中断の効力が認められないからといって、連帯保証人に対する催告の主債務者などに対する効力を否定しなければならないものでもない。

そして、連帯保証人に対する催告の効果は、民法四三四条、四五八条により、主債務者及び他の連帯保証人に及ぶので、本件貸金についての連帯保証人である都市開発に対する催告が継続中に提起された本訴によって、主債務者である被告渡部及び連帯保証人である被告庄子に対する時効は中断されたものといわねばならない。そうすると、同人らに対する時効完成を理由として、本件貸金債務等の消滅をいう被告らの主張は採用できない。

(裁判官 淺生重機)

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